「やーやー、あなたの夢の話はいいから、私を見てよ」
リトル ピンク スワインは、虹色オーロラに輝く二股の蹄を私の腕に置いた。硬いのに、蹄は、うっすら温かい。
虹色オーロラは、微妙に色相を変え、まるで生きものの呼吸のリズムのように感じられた。
「なんて綺麗な蹄なんでしょう。よく密猟者の手にかからないでいられるね。」
またしても、噛み合わない会話の始まりだと思った。けれど、
「ああ、だって、私が呼吸するのを止めたら、虹色もオーロラ現象も終わっちゃうから。密猟者達が、この事を学ぶまで、仲間達がたっくさん、犠牲になったものよ。」
RPSは、深い溜め息をついた。
「ニンゲンて、なかなか学ばないのよね。学べないのよね。あなたも、そうなの? 学べないタイプだっていう事?」
「は、へえ・・・、何、何を、ええと、まあ、事態ののみこみは、遅いタイプだったのだって、最近気づいたりはしてるけれど、しどろもどろ」
「私達にとっては、同じことよ。美しい蹄のために殺されるか、食用として殺されるか。スワインじゃなくたって、ピッグ イズ モータル バイ ヒューマンビーイング。死は、夢の果てまでも追いかけてくるってわけ」
「私達、ずっと、くっついて、お互い側にいましょう。いいかしら」
薄桃色の豚が、急に愛おしく思えてきた。理由は、よくわからない。意志の疎通が、それほど出来ていたとも思えない。というより、ほとんど成立しちゃいなかった。なのに、今、この小振りな獣を抱きしめたいのだ。
「触っちゃ駄目えっ」
矢車草の花色の澄んだ瞳が、私に訴えた。
遅かった。
私の右の手のひらは、もう、触れてしまっていた。
ああ。
縁日で買ってもらった綿あめが、夏の湿度と温度で、表面から、透明なねっとりした液体に変じていくように、月の光りの下、リトル ピンク スワインは溶けはじめた。