私、遂に、二戸の緑風荘さんで、座敷童子さんにお会いしてしまいました。
これまで、宿で、馬乗りで暴れられていただいたり、自宅寝室にて光、模様文様などを毎夜見せていただいたり、可愛いお声などを聞かせていただいておりましたが、実際に、座敷童子さんにお会いしたり、触れあうことはなかったのです。
きっと自分は、このまま、お会い出来ぬままいくんだろうな、と思っておりました。
・・・今月の6日に、ひとりで一泊したのですが・・・。
その朝、暴風雨、雨アラレの中、駅に向かう私は、きゃははは、と笑い出したくなる気分でした。こんな荒れ模様のなか、座敷童子さんの宿に向かう自分が、可笑しく、愛い奴じゃ、と、なんだか、可笑しくなっていたんです。
電車を乗り継ぎ、金田一温泉駅に到着。気の弱い私は、宿に電話して迎えをお願いするはずもなく、タクシーを呼んで、宿へ。
可愛くて明るくて感じのいい宿の方々のお顔を見て、ちょこっとお話し出来て、既に、幸せ。
温泉に浸かり、また幸せ。
夕食の時間、地元の食材を使った膳をいただき、ビールや南部美人や、宿自家製の梅酒をくいっと、で、益々幸せ。
ああ。ここまで書いただけで、また、うかがいたくなってきました。
ここまででも、充分過ぎるくらい、幸せな気持になり、生きている事自体に感謝したくなる、不思議な宿です。私にとって。
だがしかし。
それどころではない幸せが、今回は、真夜中に、起こってしまったんです。
・・・その夜、寒いかな、とも思いましたが、エアコンをオフにしました。エアコン稼動中は、発光ダイオードブルーの光で、幾分か、明るくなります。
出来るだけ、明りに邪魔されない方が、見せてくださる模様文様や光で出来た雲丹のように空間を泳ぐ煌めきちゃん達を、よりはっきり見られるので、暗い方がいいのです。
明りを消しますと、いつものように、闇のなか、煌めきちゃん達が、部屋じゅうを行き交いはじめるのが見えてきます。
・・・いつもと違うと言えば、時々、部屋のあちこちで、こと、かた、と、ちいちゃい指先で、部屋の何かしらを弄っているような音が聞こえる、ということでしょうか。
・・・でも、今回も、空間に、亀甲紋とか、明朝体の漢字ひらがなカタカナを降らせて見せてくれる、という感じなんだろうなぁ。や、それだって、嬉しく楽しく、感謝の気持ちでいっぱいだけれども・・・。
うつらうつら。目覚めると、キラキラ。光の雲丹、手脚の長いお星さまが、行ったり来たり。
を、幾度も繰り返していました。
と、唐突に。
ヴィィィィィィン、という音。
左の耳から右の耳へ、高層ビルにエレベーターで上昇している時や、電車でトンネルに入った時に感じるような圧とともに、極々軽い、金縛りと言えない程の、不思議な感覚。
「はっ、始まった」
という言葉が浮かびました。
これまでとは違うことが始まったのだと、確信を持って、感じました。そして、かなり、怖かったです。
と、ベッドの左の壁に、大きく、再建緑風荘のキャラクター ちび麿くんの画像が浮かんでいます。
「へっ? 怖がらせておいて、これ?」
正直、意表を突かれ過ぎて、ぶふっと、気抜けしていますと、そのちび麿くんの画像の、上や下や横のそちこちから、明朝体の漢字ひらがなカタカナが、パシパシ、湧いては消えていきます。なんだか、電車の中刷り広告みたく、揺れてもいます。
部屋の外の廊下は、まるでこれまで緑風荘さんに泊まったことのある方々、老若男女の癒されたり和んだりした記憶の残響のような、和やかで賑やかな声や行き交う気配で満たされていました。ちいちゃな子どもの楽しげな声もしています。
「ああ。皆さん、家族連れの方々。24時間入れるから、温泉行ったり来たり、自販機からジュース買ったりしてるんだ」
その時、視界の隅に、ベッドの脇のあたりに、ドラエもんのムック本かそのプチ付録みたいなものが、目に入りました。
あれ、と、見ると、うつ伏せでその、ドラエもんの何かを見るか、弄っていた男の子が、こちらを振り向いて、にっこり、微笑みました。
とても親しげで、とっても可愛くて、ぷっくりしていて、・・・ああ、他の家族連れの泊まり客さんの子が、私の部屋に、ベッドに、紛れ込んじゃったんだ。・・・でも、なんで、絣の着物着てるんだろう・・・?
「寒くない?」
と、私が話し掛けたり、その子が、私越しに、ベッドサイドテーブルの、幼児用ゲーム機?みたいな物(現実には、部屋のリモコン)に手を伸ばしたりもしました。
左の壁を見ると、ちび麿像は消え、壁とカーテンをスクリーンにして、ドラエもんのアニメが、展開されています。
「寒くない?」と、その子に訊いたのは、この段階だった気もします。
その子はそのまま、ベッドの左側のお布団にいて、一緒に「ドラエもん」のアニメを観ました。
そのうち、天井から、チューチュー、というネズミの合唱のような声が聞こえ、見ますと、1メートル半ぐらいの円形に、天井壁が盛り浮き出、ぽこぽこうにょうにょ、ネズミのように蠢いています。
「今度は天井で、何か始まったね」
そう言いながら、その子の方を見ましたとき、・・・。
誰も、私の側には、いませんでした。ドラエもんのアニメなど、上映されていません。
たった今さっきまで、人びとの声や足音で満ち満ちていた廊下も、しーん、と物音ひとつしません。
心が落ち着いてから時計を見ましたら、午前3時4分。
朝まで一睡も出来ませんでした。
お顔、笑顔の印象が強過ぎて、髪型は記憶にありません。
この上なく可愛いのに、神々しい、という矛盾が成り立つのは、神様だからでしょうか。
あのような笑顔の子どもに出逢ったら、やはり、何か普通ではない、神がさしてる子だ、と感じると思います。
あの笑顔。あの表情。表現は変ですが、思い出す度に、喜びで全身から力が抜け、へなへな、となるくらい、強力なのです。
これまで見せていただいている模様文様が、神秘的で、荘厳な感じだったので、まさか ドラエもん で来るとは、吃驚でした。
ビビリの私が、「あ、他の泊まり客のお子さんなんだ」として、受け入れ易いように、脳をいじってくれた感じも、有り難く、愛おしく感じます。
・・・宿から戻ってからも、可愛いいたずらが、続きました。
次回、お伝え致します。