ふみちゃこ部屋



アカシア騎士団長殺し、と呟くとなんだか脳内に喜び物質ジワリ。

今年の正月明けよりの踝ブロークンギブス生活中、自宅居間ソファを会場として、ひとり多和田葉子祭りを開催していました。
概ね日中は、居間のソファと御手洗いの間を松葉杖を頼りに行き来するだけ、夜も明かりを点けたまま、猫らに固められながら、やっぱりソファに籠城な、限られた行動範囲の生活が続いているところに、多和田葉子さんの言葉の世界を、断続的に昼夜注入させたら、言わずもがな毎夜、微妙にヨロコビの側に属するかたちのナイトメアを見てしまいました。相変わらずくどいな、一言で表せ、と言われたら、ボッシュとルドンの絵に透明水彩で光を混ぜたような世界を、目蓋の天蓋スクリーンで繰り返し見ていました、と述べます。あ、どのみち、くどい気配がするぞ。

「尼僧とキューピッドの矢」の読み返しから始まり、「エクソフォニー」「献灯使」「百年の散歩」「容疑者の夜行列車」「ボルドーの義兄」「雲をつかむ話」etc・・・“回転する車輪のように亀鏡が笑い、その笑い声の中にわたしは虎を見た。”で終わる、「飛魂」が、締めとなりました。

多和田葉子さんは、ドイツ語でも作品をものして、地球のあちこちを、自作の詩の朗読や文学者の集いにと、訪ねている方です。重いギブスで限定された(や、ギブス抜きでも) 行動半径数メートルな私の、対極を生きているのだろうなぁ。
いいなぁ。
そんな多和田さんの紡いだ言葉の糸に、自ら絡め取られたく、日々頁を捲っていました。
・・・何処へも出られなくても、本を読んでいる間は、今居る場所の軛から自由になれる。かわりに、言葉の齎らす空想が、私を縛ってくれる。捕えてくれる。ことのよろこび。・・・懐かしくて、切ない、子どもの時分の感覚が、ほんわりと、漂いはじめた時・・・。

ああ。甦って来ました。

あ。ああ。ア。
「アカシア騎士団」
懐かしくて、切ない、の極みの、金井美恵子さんの初期の短編集。
私の、“ない筈がない” のに、探しても見つからない、神隠し系バニッシュ本”の、筆頭が、「アカシア騎士団」でした。
それに次ぐのが、ジェラール・フィリップの未亡人が夫ジェラールとの日々を綴った「ためいきの時」 と グロリア・スタイネムの、マリリン最後の日々、的な「マリリン」です。
誰かに貸したっきり、なのでしょうか。誰かが捨てたのでしょうか。引越しの荷物と一緒に、他の時空へ吸い込まれちゃったんでしょうか。(実際、過去の引越しで、一番大事な洋服や本をまとめた一個のボックスだけが、なしてだか引越し先に届かなかったで
す。)

「アカシア騎士団」。
わらしのとぎ、本の世界さ居るば、幸せだったっきゃのぅ、の頂点の、
「アカシア騎士団」。

村上春樹さんの新作が、「騎士団長殺し」だと耳にした時、金井美恵子さんの「アカシア騎士団」が浮かび、「アカシア騎士団長殺し」と、思わずニタリひとりごちた御仁が、他にもいてくれる気がするのですが・・・。気のせいかなぁ。

今、1976年発行、新潮社版、850円と記された、ギュスターブ・ドレの絵が表紙を飾っている「アカシア騎士団」が、手元にあります。
なんと、ギブスフリーになったら、本棚の横から、ひょっこり出て来たんです。ではな
く、はい、Amazonで中古本を買いました。やっとギブス外れたぜベイベー感とともに、画面をポチっと押して、手にし、読むことが出来ました。嬉しい。

表題作「アカシア騎士団」に、アカシア騎士団は、本当にあった。という一文があります。
そして、アカシア騎士団長殺しも、物語のなかでは、存在しているのです。・・・?

や、物語のなかの、物語? ということか、でも、わかりやすい入れ子ではないのですが・・・。
とても澄んでいるのに、美しく歪んでいる。読むことの幸せに向けて、無限に開かれ、完璧に閉じられた、虹色の矛盾に、結局、昔も今も、遣られてしまったのでした。

あ。ごく若い頃の著者の写真を、表紙裏に見つけました。
『柱を抱かせた紀信が憎い』以前(彼女は、新進気鋭とても若い女流作家として、篠山紀信の被写体になったことがあった筈で、その写真をまた、批評家の誰かが、ググッと来たぜ系に評したように記憶しています。)の、ショートカットになる前であろう、長めオカッパの金井美恵子さんが、此方を見ています。依怙地で陰に籠っている気が強そうな少女に見えます。若書きのジーニアスのかんばせです。

TVの画面からでも、誰かが「騎士団長殺し」と発する度、「アカシア騎士団長殺し」と、低く呟くと、フゥッと、少しだけ、幸せになる気がします。
『騎士団長殺しは、アカシア騎士団長殺しは、本当にあったことなんだ』
イコール
“アカシア騎士団の時代から、あたしは、読むことの喜びの向こう側まで行ってんだぜ”
のよーな、自己陶酔的な小さなうそぶきは、軽やかな呪文みたく、私をちょっと楽しくしてくれるのでした。


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by chaiyachaiya | 2018-04-03 12:53 | ねこの寝言 | Trackback | Comments(0)
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