「や、あの新聞の夕刊の占い、食材の仕入れの目安にしてるんだよね、当たるんだよ、いつも」
と、ご近所のレストランの主人が言っていた。
「ふぅん、そうなんですか」
それからというもの、訪ねる度に、和洋中の稜線ぶっ飛んだオリジナルな料理を、リーズナブルな値段で供してくれる主の言葉に重みを感じ、地方紙の夕刊の“明日を占う”のコーナーに、注目するようになった。
・・・私は獅子座。がお〜っ、の星のもとに生まれて、うだうだしているうちに、あっという間にオバはんになったんだぞ、エライんだぞっ。
と、いうわけで(?)、私は、件の地方紙の夕刊の星占いに注目し始めたのであった。
毎夕、“明日を占う”を見るようになり、暫くした頃の事だった。
『最良の喜びの1日。これまでの努力が報われる』
二男の星座の星の言葉であった。ああ。おお。“明日”は、二男の推薦入学の合格発表日なのだ。
私は、寝室に入ってから、ひとり、へらへら、勝ったも同然フェイスになっていた。
あのレストランの主人が、間違いなし、って評してた占いだもん。ああ、良かった。ほほ。皆さん、ゴメンなさいね。一足先に、受験という受難に、うちは明日でおさらばだわ。うふ。
そして、いよいよ、翌日。固定電話が鳴った。うふふモード続行中の私が、受話器を取った。
「お母さん。残念ですけど・・・」
目覚めてから4時間と経ずに、進学担当の男性教諭から、連絡をいただいたのであった。
たぁ。んだば、学力試験でいきやしょうぜい。
今よか、かなり若かった私は、少なくとも、子供のためには切り替えも素早く、受験生の母仕様で、今暫くいくこととしたのだ。
そして、学力試験の結果発表の前日の“明日を占う” 二男の星座の欄には・・・。
『何事も忍耐がものをいう。望み捨てるべからず』
えっ?。えっ?。えっ?。
これって、ヤバくないですか。つまり、また、駄目って事、なのですか。
・・・待てよ。前回、占いの文言とは逆の結果だったということは、寧ろ、明日は朗報が待っているという展開か。
今夜は、眠れまい。・・・と、覚悟を決めた私だった。のだが、缶酎ハイ一本で、パタリと、眠りの王国に倒れこんだのだった。
・・・そして、・・・果たして、二男は、今度は、合格していた。
長男が帰省した時であった。件の夕刊の、件のコーナーの、長男の星座のところを読んだ私は、仰けぞった。
“朝一番に会う相手に気を許すな。腹に一物あり”
え・・・。
たまの帰省で、のんびりベッドに身を預けている長男が、いやがうえにも、日の始まりに、最初に会う相手とは、
「ほれ、いい加減に、起ぎだらいがべさ、はぁ、9時半だや」
と言いつつ、ドアを開けるであろう、この私以外、あり得ないのだった。どうしよう。
先日はまた、私の星座において、
“後味の悪い1日。早々の切り替え大切”
と、記されていた。何だろう。何があるんだろう。後味悪い、って、どんな事だろ。見当がつかない。
・・・その日の夕刻まで、思い当たる事態を迎えることなく、過ごせていた。未だ、後味の悪い出来事には遭遇していないぞ。
ああ。今宵この後、何があるっていうんだろ。
夜ご飯の時間となった。
無添加出汁を使った煮物で、大丈夫、味覚の面でも、後味、大丈夫。
「これ、カロリーかなり抑えた新発売なんだけど、飲んでみる?」
プシュッ。缶酎ハイを、家人とともに、お互いのグラスに注いだ。
ひとくち、ゴクリ、飲んでみた。
「あ・・・」
カロリーを滅するために用いられたであろう人工甘味料の風味が、舌の上に、苦さとして、しつこく残った。
「あ・・・」
後味、最悪だ。
アスパルテームやアセスルファムカリウムなどの表記のない酎ハイに切り替えるために、急いでキッチンの冷蔵庫へ向った私だった。