蜜の甘い匂いに 満たされているというのに
意気揚々と帰っていらした
お兄さんもお姉さんも
動かなくなって
黒いプチっとした硬い蜜の神様みたくなって
巣穴はね しーんとしてるの
でもね 勇気を持って 私は 出掛けたの
そして 白いトレーの窪みに満たされた
蜜を見つけたの
って 韻を踏んで しゃれみたいじゃない
いけてるじゃない
ねっとりした蜜に 取り込まれたまま
逝っちゃってる お兄さん お姉さん もいてね
あ あのね 怯えてなんかいないの
死体溜まりの池の様相を呈する その蜜にね
私は 概ね 頭部すら 浸して
甘い甘い 蠱惑の蜜を 吸ったの たらふく
巣穴への帰路 うっとりと 満月を見たわ
昼夜を問わず 労働に従事する私達のシルエットを
お月様は
美しい愛おしいものとして 照らし出してくれてたと思う
ああ でもね
巣穴に戻ったら 妙に静かなの
私より先に蜜を吸った 先発隊の 兄姉たちから
命の気配が ちっとも しないのよ
そして 私もね だんだん 動けないの
たまごから 孵ったばかりの 弟妹たちに
あの蜜は 吸わないで
て 伝えたいのだけれど
私 もう 動かないの
通信機器の触覚もね 冷たく 固まってしまったわ
さよなら さよなら さよなら
今度 此の世に 命を 繋ぐとしたなら
蟻 じゃなくって 何に なろうかしら