親方猫アビは、昔ながらの劇場の、賑やかなステージの下、両腕両脚を踏ん張り、回り舞台を操作する剛力な職人さんのように、ドアレバーを体ごと押し倒しながら、ドアを開ける。
ジュヒーは、背伸びをしても、ドアレバーに前脚が届かない。だから、カシャカシャ、カシャカシャ、前脚の爪でドアを掻き鳴らす。
カシャカシャの努力が実って、いつの日か、そのコンクパールのような肉球で、ドアレバーに触れる瞬間が来ると信じているのか、思いきり、高く伸びている。
全身に、ふあふあのチュチュを纏った、舞台見習いの女の子が、役割りを果たすために、舞台の袖に出ようとして叶わず、困っているみたい。
ルーは、左右の前脚で、両側から抱えこみ、ドアレバーに触れ、バレエの一コマを演じているように、回りながら、ドアを開ける。
今宵、ルーは、舞台の主役。パウダーグレーの装束は、スポットライトを浴びると、碧紫に輝く。
けれど、ルーの所作、ステージアクトは、頼りなげなげで、王子様というより、きょとん顔のいたいけなお姫様。ソリストじゃなくて、とぼけたプリマドンナ。ドアレバーは、ルー姫をリードする恋人の腕。
くるくる、くるくる。真面目な顔で、今日も、ルーは、回転してる。
そんなルーの姿を見る度、私の頭のなかでは、バレエ「白鳥の湖」の、あのドラマチックな音楽が、大音響で、鳴り響いてしまう。そして、にひにひ、笑わずにはいられなくなる。
ルー、ありがとう。