ふみちゃこ部屋



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骨、或いは私の愛の物語 14 蟻のラブソング

あなたの体の特徴を、今でも愛おしく思い出す。
連日の過酷な労働のせいもあろう、捻じれたような、かなり左右不対称な胴回り。左の触角が、やや、くの字に長かった。頭部右下に微かな傷痕。艶のある黒い背中。
私の愛の、カタチ。『死者の書』の、みみもの刀自のように、「お愛おしい」と、私は口にしたくなった。
あなたは、黙々と隊列を乱さず、いつものように、行軍しているはずだった。
私のような、おかしなテンションのダンスマニアではない、生真面目な、あなただもの。

なのに、その日の朝、私の少し前を歩んでいたはずのあなたは、突然、朽ち葉のステージの上に飛び乗り、奇妙なダンスを始めた。
それは、初めてタイツに包んだ太腿を露わに、観客の前に躍り出たバーツラフ ニジンスキーのような、何者かに馮依されたような、神懸かり舞踏だった。
時々、両の前脚で触角をこそぎ落とそうとでもするような、切なく祈るような、ステージアクトが見られた。
私は、理由も解らず、ただ目をみはった。

「あれは、死の舞踏だ」
私の前にいた黒い仲間が、触角で、私に伝えてきた。
何のことだか、意味が解らなかったけれど、不吉極まりないことが、あなたの身の上に起こってしまったということは、すぐに理解できた。

働き蟻の同僚達のの決断は、早かった。
同僚仲間のうちの有志ひとりが、踊り続けるあなたを、行進ルートから離れた窪地へ、無慈悲に放り投げた。
あなたは、それでも、踊りを止めなかった。それはだんだん、踊りというより、痙攣に近いづいていった。

「もはや近づいては、ならぬ」
隊列を組む働き蟻の誰かが言ったのか、あなたの思いが、私の心に呟きとなって響いたのか、今となっては、もうわからない。

その後、一日中、私は、仲間達と、働き通した。働き蟻の本能なのか、心が如何に乱れていようと、私の行いに狂いはなかった。
窪地にいるあなたの動きは、通りすがる度に、ダイナミズムを欠いていく。
虫による、虫の息、そのものだった。

数日後、硬く動かなくなったあなたの頭部から、太いツノが、一本、生えているのを見た。
あなたは、微動だにせぬ鬼となった。

「冬虫夏草。それは、冬虫夏草」
誰かの叫ぶ声がする。
あなた。或いは、私自身。仲間達。理科の先生。
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by chaiyachaiya | 2012-04-30 23:02 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 13 蟻のラブソング

働き蟻の命の時間の間じゅう、既に何度も、何度も、死んだり、生まれたり、を繰り返している気がしていた。
来る日も来る日も、抑揚のない完璧な呪文のように、あなたと私は、働き蟻の時間を永遠に、生き続けているような。

この選択肢のない生き残りゲーム。ご褒美は、稀に口にする、雨に混じった、植物の蜜。それにしろ、ふと気を弛めたとたん、樹木達から虹色に滴る蜜の内部にとりこまれ、溺れて息が出来なくなる。
気をつけなくちゃ。今日死んで、明日生まれる、小さな単位の命だとしても、生きなくては。懸命に、生きなくては。

その日の朝、ジャングルの、ごく小さな黒い粒の私は、夜明けとともに、いつになく、手脚の関節のすみずみにまで、森の気が行き渡り、からだが軽く思え、踊り出したいくらいだった。
暗い巣穴から、地上へ、隊列を組んで、私達は先ず、一列に繰り出すのだが、私達の触角伝達は、きっとコンピューターより早い速度で、世界の片隅の暑い熱い地下王国を支えているのだ、という自負が、私のフットワークをより軽いものにしていく。
私は、いよいよ、踊り出しそうになった。
触角を振り振り、密林の黒い粒ダンスを、私の前を行くあなたをけしかけて、一緒に踊りたいと思った。
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by chaiyachaiya | 2012-04-29 23:35 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)


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