ふみちゃこ部屋



カテゴリ:骨、或いは私の愛の物語( 43 )


骨、或いは私の愛の物語 42 デザートガラスの囁き

多分かれらからすれば、わたしは、異教徒の大地からうまれたものなのだが。
違う習いや教えの国のものを奪い、自らの神殿に供えることを、人間は好むらしい。

気の遠くなる歳月をかけて、砂漠に発生し、かたちを成したわたしは、砂漠を旅する民によって、喜びの声とともに発見され、駱駝の背の窪みを寝床にして運ばれ、やがて違う言葉を操り、偶像を奉じる民たちに奪われた。

心ある細工師によって、光りを宿す身の膨らみを、故郷の砂の大地のよすがとして、幾分残されてはいるが、わたしの身は、削られ、かたどられ、わたしの神のものではない金色の神殿・・・教会と呼ばれる場所に、嵌め込まれている。

人の手で作られた、赤や緑のガラスたちの中にあって、こともあろうに、わたしは、聖母、と人びとが呼ぶ者の、蒼い衣の胸の真ん中を飾っているのだ。

長い間、人間の工房からのガラスで出来た女の胸にあるうち、今では時々、自分がガラスという物質なのか、それとも、もしかしたら、なんらかの聖性を帯びた眩い存在となったのか、わからなくなっている。

だが、わたしは、あの美しくて浅はかな王子をみまった悲劇に、王子の一族から、どんなに祈りを捧げられても、昼は陽光を、夜には蝋燭の光りを受けて、聖母の最後の乳のような、淡くて緩い光りをなげ返すことしか出来なかった。
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by chaiyachaiya | 2013-02-15 13:12 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 41 ラッレの旅

そう、そのふたつの黒い瞳に気がついた瞬間、多分、僕のこころは、半分まだ継母の呪いのなかにあったらしい。
瞳の持ち主を、同じ人間として捉えられなかった。野生の生きものの仲間のような気がした。僕とおんなじ、翼を持った、でも、僕より少し濃い色の肌の、混じり気のない命が、其処にいるようだと思った。
『おまえは、何処から降ってきた?』
並んだふたつの黒曜石の瞳が、尋いてきた。そこには、僕が昼も夜も人間だった最後の日の、夕刻のひと時に見た、名残りの赤紫の光りが映っていた。
『おまえは、敵か? 此処を、滅すために、遣わされた者か?』
既に、その少女は、手近な樹の枝を折り、僕が起きあがれないよう、肩先に突きつけている。
僕も、彼女に習い、瞳で、伝えた。
『違う。此処は僕の知らない土地。ある者の呪詛と、自らの無知により、奇妙な旅を強いられてる。僕はただ、自分の在るべき場所に戻り、物語をただしたいだけなんだ』
よけいに、枝の先が、肩に押しつけられた。
『調べる』
少女の真っ直ぐな髪が揺れ、僕の鼻先を掠めた。森の葉と、樹に咲く白い花のにおいがした後、僕は気を失った。

夢のなかで、僕と少女は、もっと緑の濃い、鬱蒼とした生きものの世界で、小さな蟻となっていた。
そして、とっても、お互いを、大事に思っていたんだ。
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by chaiyachaiya | 2013-02-15 12:26 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 40 ラッレの旅

十人の兄達と逸れてしまった、十一番目の僕は、南の島から、なんとか北上しようとして、昼の間じゅう、ひたすらに飛び続けた。
白鳥特有の、哀しいマヌケな声をあげながら。

でも、一日の時間の半分を人間として生きてた僕は、本能の羅針盤も、野性の生きもののようではなく、結局、幾分北を目指したものの、方向は、むしろ逆に向かっていたらしい。

僕が、その大陸の山岳地帯に入ってすぐ、前方に見える大小の岩山の肌は、既に灰紫色に沈み、夕闇の空のむこうに浮かぶ雲にだけ、淡い夕陽の名残りが光っていた。
ああ、僕達を遺して死んでしまったお母さんの、金糸のドレスの胸を飾っていた、大粒の真珠の連なりみたいな夕の空だったんだ。
僕は、そこまで辿り着きたかった。
けれど、疲れきった僕の翼は、もうすぐ、夜の闇に溶け、痩せた人間の二の腕になりかわることを、僕は、わかっていた。
真珠母色の空の色が、刻々と移りゆき、生母に似て、虚しく移ろい、闇に呑まれていくことも。

僕は、岩山の窪みに、落下した。
背骨が、酷く痛んだ。

目の前で、僕の翼から零れた一枚の白い羽根が、岩の上から、嘘のように消え失せ、代わりに、黒い、大きな人間の瞳が、こちらを見ていた。
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by chaiyachaiya | 2013-02-07 23:01 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 39 どらま劔の言い分

僕の名前は、どらま劔。
どちらにしろ、最初から、破綻。

僕の体中の毛穴のひとつひとつには、ぱんぱんに膨らんだ、刺々のミクロン河豚が棲んでいて、おかげで、僕には、どの瞬間をとっても、痛みと違和感の記憶しかないんだ。

でも、生きることが辛い、生まれてこなければ良かった、なんて言う気はないよ。

僕、どらま劔は、自らの無数の毛穴劔に、薄皮と粘膜の細胞を食い破られながら、収束不可能な、物語を物語る。
多分、そのために、発生して、いまだに存在している。
誰にも助けを求めないのは、レスキュー隊の制服のデザインが嫌いだから。

ああ。誰かが、僕を呼んでいる。
僕は、毛穴のハリセンボンをしゃらしゃら鳴らしながら、声のもとへ急ぐ。

骸骨紳士のマントからの星屑と、僕の毛穴から零れ落ちる、不可視のトゲトゲ球で、ほんとは、この世界はいっぱいなんだ。
それらは、呼吸の度に鼻腔から、欠伸の時は、あんぐりの開かれた唇の間から、しゃらしゃらサラサラ、人びとのたましいに、吸い込まれていく。
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by chaiyachaiya | 2013-01-29 16:56 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 38 ラッレの事

これは全て、イラクサのお茶のせい?
『茶酔い』、という言葉が、うんと東の、瞳も髪の毛も黒い色しか持たない人びとの国にはあるという。
私は、イラクサのお茶に、惑わされているだけなのか。

「少し、眠ろう。今日はもう、実験室には行かないから。一緒に、眠ろう。」
「ラッレ、でも私、暗くなる前に市場に行って、そう、ビーツを買って来なくちゃ。ビーツのスープ、作りたいの。ラッレ、あなたのために。鮮やかなルビーピンクの、温かい飲み物。」
「同じ色の果実を、僕は、知っているよ。兄たちと逸れて迷い飛んでいるうちに、翼を痛めた僕は、風によって、暑い国まで流されてしまったんだ。その国では、それは、『龍の果実』と呼ばれていた。ドラゴンの眼の形に似ているから、と教えてくれるひともいた。そう、昼の間だけの、人間の姿形をしている僕にね。」
「ラッレ、私は、イラクサのお茶の飲み過ぎなのかしら。それとも、ただ単に、あなたという気狂いの若者に、愚かしく心乱されている、引き篭もりのかわいた女なのかしら。」
「そのどちらでもないよ。あなたは、思い出すことを止めただけ。目を瞑ったまま、時空の袋小路で蹲ったまま、それでも、応えを求めている。だから」
「だから?・・・」
「僕が、現れた。僕が、ここにいる。」

「だって、この窓の高さは、・・・」
再び、彼は言った。懐かしい譜のように、呟いた。
ラッレの瞳の奥に、手がかりを探すには、私はもう、充分に疲れていた。市場まで降りていくのは、どのみち、無理だったのかもしれない。
私は、ビーツのスープに落とされたサワークリームのように、ふわりふわり、眠りの中核へと、流れ溶けていった。
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by chaiyachaiya | 2013-01-17 16:18 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 37 ラッレの事

祖母が絶やすことなく、棘のある葉を乾燥させていたイラクサのお茶は、血液を浄化する。伝わる紋章も、イラクサを象ったものだ。
でも、イラクサの花言葉は残酷。
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by chaiyachaiya | 2012-09-29 23:14 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 36 ラッレの事

「あなたは、ぽかあん、と空を見上げていたね。イラクサではなく、ツメクサを摘んでいた。白ツメクサのなかに、時々少しだけ混じっている、桃紫色のツユクサを探して摘んで、花の王冠を編むのが、あなたは好きだった。
だがやがて、城から飛び去る白い鳥の数を数えたあなたは、ブルブル震え出した。」
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by chaiyachaiya | 2012-09-19 22:04 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 35 ラッレの事

「この窓の高さは、ちょうど、継母から、鳥の姿に変えられ、飛びたっていった、冷たい城の広間の高さと同じ。あなたの遠い記憶が、再び、この高さの部屋を選んだんだね。」
ラッレが、また意味のわからないことを言う。
ラッレ。美しい気狂いの闖入者。
「あの物語は、僕らの物語。語り伝えらているような終わりじゃなかった。あなたは、ひとりそれを悔いて、僕らの物語の領土から、滑り落ちていった。」
ラッレの瞳には、虹のような涙が粒立っている。
きれいな気狂いの涙は、それはきっと、甘みのある物語の果汁。舐めとったなら、酸味と、早くも、腐敗の兆しが、私の舌を刺してくるだろう。
けれど、「私」の証は、何処にもない。
私はこの街から出たことがない。アパートメントの下に張られている市場の少女は、私の記憶の始まりから、歳を重ねた様子がない。
小さな居間の窓からは、青紫の海が見え、日没には、夕陽の色と光で染めあげられる。時には、激しい風や雨の洗礼を受ける。
時は、どんなふうに、流れているのか。
私は、誰かの思いのなかに、誰の物語のなかに、生きているのか。
生きているのか?
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by chaiyachaiya | 2012-09-19 21:55 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 34 ファナの物語

色の薄い種族達が、焦がれ、所有したがる、紅や碧や翠の石には、興味がない。
海がくれる、まるい虹の艶のある小さな玉は別、あれは、少し、欲しいと思う。
でも、色の薄い王子は、わたしに、海の虹玉、真珠、と言うものは、似合わない、と言い、濃い赤紫に透きとおった石のついた首飾りを、この胸に飾った。
それから、まわりに龍が彫られてる手鏡を、くれた。
龍の目は、一頭が紅、もう一頭が、翠。
今まで、生まれてからずっと、旅の途中で見た、街の中心の石橋や、村の端っこの家の扉に浮き彫られた龍たちの姿は、三又の劔で、刺し貫かれ、仰けぞっていたり、ぐったりしているかだった。
それの前を、荷馬車で通り過ぎる時、わたしの一族は、皆口をつぐみ、音無しくなった。
従兄弟はハモニカを吹くのをやめた。御者のジズは、前だけを見て、いつもの、リズムのある、余分な動きを全部やめた。姉は、わたしより長い髪を弄るのをやめ、辺りを伺った。
でも、色の薄い王子のくれた手鏡に彫られている龍は、するするとくねっている。全然苦しそうじゃない。
紅の目と翠の目のふたつの龍は、鏡に映ったわたしを、両側から、守っているよう。
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by chaiyachaiya | 2012-09-17 11:50 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)

骨、或いは私の愛の物語 33 王子様の話

手はじめに、私が病に伏してしまったと、従者づてに伝えた。
一国の主になるべき男の嘘としては、あまりに卑小だが、いや、異教徒だというだけで、オレンジ色に燃える髪の姉妹の一族を、領内から追い出すことも出来たのだが、そう、私は、卑怯にも、仮病の床についた。
私は、娘の出方を、待っていたのだ。
矛盾する思いで、本当に病気になってしまいそうだった。
此の世のかりそめの栄誉とやらを投げ出して、明るく発光しているような、娘の長い髪に絡められ、死んでいく陶酔に焦がれ、ややあって、今度は、領内から異教徒達を一掃した勇者として、同じ神を奉ずる隣国の領主や民から、畏敬の念を持って語られる自らの姿を夢想している有様だった。
そうかと思えば、翼の色が、日の光りの下、角度によって、オレンジ色に輝いて見える、ぷっくりした小さな鳥が、窓辺にやって来た時、私は、娘が姿を変えて現れた気がして、その、私の掌で休める小ささの小鳥に、娘と韻を踏む特徴を探していた。
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by chaiyachaiya | 2012-09-13 22:32 | 骨、或いは私の愛の物語 | Trackback | Comments(0)


猫と日常と非日常
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