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ふみちゃこ部屋



子どもの祭りと8枚羽根トンボの秋

「今朝、不思議な夢見た。窓のすぐ外に、羽根が8枚あるトンボが、大小二匹づつ飛んでる、というか、空中で止まってた。大きい方は、大人の掌ぐらいもあって、紫にキラキラしてた。へえ、こんな羽根の数のトンボもあったんだ、って、子供たちと図鑑調べなきゃ、って言ったところで、目が覚めた」

夢で見たという、8枚羽根巨大トンボの紫の輝きが、瞳の虹彩に、その名残りを宿したようなキラキラぶりの表情で、家人が言いました。けれど、
「は、はあ、あ、そう」
子どもの通う小学校の秋の祭りを明日に控え、午前中から準備のお手伝いに向かわねばならない私の反応は、あるかないかにとどまりました。

その年の初秋は、それまで幾十年も、危うい薄い被膜のようなもので、何とか隠されて来ていた或る問題が、恐ろしいカタチで表面に、ブワリ、浮き上がり、そしてそれは、まだまだ氷山の一角でしかないんだと、なす術もなく、思い知らされる日々を送っていたんです。(抽象的な言い表わし方で、ごめんなさい)

私がその秋、眠りの中で見ていた映像や、体験していた出来事は、カタルシスに向かっての、くらい暗示であり、恐ろしい絵柄による、けれど何処かほっとする、不可思議な謎解きパズルであり、自分のこころの核の意外な強さの兆しだったり、していました。あれやこれやのナイトメアに、魘されるは、時には癒やされるは、な奇妙な季節を生きていました。
起きていても、眠りの中でも、空気が、ごく緩いゼリーになって、水気と僅かな抵抗をともなって、私をくるんでいるように感じていたんです。

「え、と、うどんコーナーの教室の飾り付け、お願いしま〜す」
うどんコーナーのリーダーさんが、明るい声で言いました。
土曜日の真昼に、家族を置いて家を出、校舎に集まったお母さんたちの顔は、参観日に見る表情とは違い、何処か解放されているように感じます。
「ほ〜い」
私にも、救いの時間となりました。
皆、一様に、柔らかい笑顔で、一定の朗らかさを保ち、こうして、机を重ねて台として、支え合い、教室の天井に、紙テープを張り巡らせたり、色紙リングをぶら下げたり、切り抜き金銀星を壁に貼り付けたりしているけれど、私だけじゃない、きっと、どのお母さんも、程度の差こそあれ、懸念事項ずっしり満載ですよ状態かもしれないんだ。
などと、ひとりよがりに想い、勝手に癒されていました。

そして、黒板に、様々な色のチョークで、デッカく、『うどんコーナー』『めちゃめちゃ美味しいよ‼』などと、書いていた時です。
「これさ、昨日作ったんだけど、仕上げに、何処かに飾ってください」
リーダーさんの、手にあるものを見た私は、「ひぃッ」と「ぎゃあっ」を、むしろ息を吸い込みながら、同時に発してしまった心地になりました。

それは、色画用紙や煌めくモールで作られた、トンボ、だったんです。
大小、二個づつ、幾つかセットで、そう、大きいトンボの胴体は、紫のキラキラで、巻かれていました。(子トンボのほうは、緑キラキラ)
羽根の縁取りが、羽根本体とずれているために、まさに、大小それぞれのトンボは、8枚の羽根を付けているように見えます。

「これ、このトンボ、窓に貼ってもいい?」
ひとり興奮して、私は言いました。
「あのね、今朝、オットくんが、8枚羽根の親子トンボの夢見て、んで、窓のところにいた、って言うから」
「え〜、そうなんだ、いいよいいよ、貼ろ貼ろ」

家に帰ってから、子らに、おとーさんの夢がめちゃ当たった、予知夢、おとーさんも見たよ、と、激しく伝えましたところ、
「へー」「はあ」
という緩い反応が返って来るばかりでしたが・・・。

多分、家人の無意識の層にも、じわり、これから起こることについての、非常事態宣言がなされ、ちょっと、夢の領域に、不思議に作用してしまったのだろう、というのは、家人と私の共通の感じ方でした。

同じ年の晩秋、私は、もう一度、8枚羽根のトンボを見ています。
11月になってから、家の塀の上に、西陽に最期の温もりを求めたのか、色の失せかけた、かさかさのアキアカネが、羽根を休めていました。
ところどころ、それぞれ小さく切れ裂けた4枚の羽根は、強い西陽を受け、淡く橙に染まった、灰色の塀の上に、濃い影を写し、まるで8枚の羽根の浮力で、もう一度空へ浮かびあがろうとしている風情。

旅に出る先は、もはや、この世ではないのでしょう。

ヤゴの時代を過ごし、無事に羽化してトンボとなり、空を飛び、こうして、羽根がぼろぼろになるまで、蜘蛛の巣にも掛からず、小動物に殺められることもなく、生き抜いた、トンボという小さな命は、彼の意志とは関係なく、夕刻の微風に、8枚の翼を振るわせながら、今まさに、旅立とうとしていたのでした。
by chaiyachaiya | 2013-10-26 15:03 | ねこの寝言
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