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ふみちゃこ部屋



未来の力士と彼の魔物語り

子の保護者会があり、天井の高い市民ホールで、午後の時間を過ごしていたら、教室で座っている椅子を持って、全校生徒が講堂に寄せられる、中学の頃の、全校集会の空気が思い出された。

私は、背が高い方だったので、背丈の順に並べられると、最後列から2、3番目のポジションとなる。
いつも、男子の、バスケットボール部や、野球部、陸上部の、背高の精鋭達が、至近距離に腰掛けていて、そういった体育会系美丈夫に憧れる女子達からすれば、何の努力もなしに、身長だけで、いい場所に陣取っていられる立場だった。

のだが、ルキノ・ヴィスコンティ監督による「ベニスに死す」の、タジオ役の少年、ビョルン・アンドレセンと、マッチョを標榜する前の長髪フレディ・マーキュリーが、左右から同時に、私に愛を求めてきたら、果たしてどうしたらいいのか、という問いに、答えを見出せぬまま、妄想ワールドにトリップしている、中二病(というのでしょうか?んだば、未だ完治していないみたいです)な私にとって、同級生や下級生女子の憧れの対象の体育会系美少年達の麗しさは、ちっとも意味を持てないものだった。

そんな私にも、全校集会、といえば、よみがえる思い出がある。
いつも最後列にいた、身体の大きな、D君に関することなのだが・・・。

D君。彼は、ひときわガタイが良かったけれど、威圧的なところが微塵もなく、その体躯からは、素朴な優しいオーラが、毎時無限に放出されているように思えた。
先生の目の届きにくい全校集会後列集団は、椅子をずらし、さり気なく身を捩り、D君の語りに、皆で耳を傾けていたものだった。

「ほら、あのK町のJ神社の裏の児童公園の沼、あそこには、大っきな鯉が、沼の主がいたんだけど、埋め立てられたよな。こないだの火事で、すぐ傍の家焼けたろ。何故だか、焼け跡の、その家の壁に、でっけえ鯉の姿が、魚拓みたいに浮き出てたんだってさ」
「S町に、F寿司って、寿司屋あるだろ。勤め帰りに、そこの入り口で、何年も会ってなかった友達にばったり会った人いて、一緒に、F寿司入って、寿司食って、ビールも酒も飲んだんだって。で、店出て、帰りに、その友達の姿見たら、膝のちょっと上のあたりから下、無いんだって。宙に浮いてるんだって。真っ青になって家帰ったら、亡くなった、って電話あったって」

“膝のちょっと上のあたりから下”という表現に、幾許かのリアリティを感じたものの、D君の、おおよそ町なか半径5キロ内由来の魔物語りは、そのとつとつとした語り口により、どこまでもほのぼのとしていた。そして、それ故の不思議な魅力があり、皆が引きこまれた。後列グループは、先生が近寄って来ると、何事もなかったように、取り敢えず、御澄まし顔になって前を向いた。そんな共犯気分が、楽しかった。

D君は、その後、相撲部屋に入門し、力士となった。
歴史に名を刻むほどの大成は、しなかったらしい。
けれど、彼の、ほんわりした語り口の地域限定怪談の思い出は、きっと、後列グループの、その後の其々の人生における“しんどいタイム”の濃度を、ふっと、薄めてくれている。
by chaiyachaiya | 2013-07-15 22:09 | ねこの寝言
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