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ふみちゃこ部屋



戦争ゲームのあくる日の座敷童子ちゃん

その宿に着いた当日は、夕食の前(ビールを美味しくいただくため)と、真夜中(酒精さんに少しでも体から出ていっていただくためと、座敷童子ちゃんの気配を感じるため)に、館内の温泉浴場へ向かうのが常でした。

或る夜、例によって夜中過ぎに浴場の戸を引きますと、宿で知り合った女性がひとりいらして、湯に浸かっておられました。
ふたりで、これまでに宿で体験した不思議な出来事などを伝えあった後、私の方が先に浴室を出て、脱衣所の引き戸を閉めたとたん。

うら若い女性が柔らかい声で、朗らかに歌う声が、浴室から聞こえ始めたんです。
その女性は、私同様、既に、うら若い、と表現できる年代ではありませんでしたが、ハミングする段になると、グイッと声が若返ってしまう、ちょっとした特異体質なのかもしれない、と感心し、「凄い、可愛いお声ですね」と、声を掛けて驚かそうかとも思いましたが、や、もはや彼女のひとりのリラックス時間に立ち入らずにおこう、と静かに、家族の眠る宿泊部屋へと、廊下を進みました。

部屋では、皆もう寝静まり、テーブルの上に、長男が宿に着くなりちょっと音量も上げて集中していた、第二次世界大戦を模した、戦争ゲームのデータが入ったパソコンが、柔らかい薄闇に、茶筒や、急須、湯飲みなど丸みのある物たちのなか、冷んやり直線的な異物感をともなって、見えていました。

翌朝のことです。
「夕べ、私が出た後、歌を歌われていましたよね。若々しい声で、びっくりしました」
大広間での朝食の際、件の女性に話し掛けたところ、
「は、私、歌っていませんでしたよ。お風呂場で歌う、ってこと、ないんです、私」
「え?」

それから、子らは、もう一度、温泉へと向かい、夫と私は、荷物を纏めながら、部屋にいたのですが。
「ここに泊まって、初めて、悪夢見た」
と、ぽつり、夫が言いました。
「ええっ、ど、どんな?」
「自分が、ヒットラーの側で、酷い戦争の司令官で、最後に負けて、責任取れ、って迫られていた。もの凄く、苦しかった。ここで、座敷童子ちゃんの宿で、こんな夢、見るなんて」
「座敷童子ちゃんの宿だから、だったりして。昨日の戦争ゲーム、童子ちゃんにとって、辛かったのかも。戦争で、早く亡くなった子も、いるのかも」
考える前に、私は、こんなふうなことを、話していました。
「そうなのかなあ」
夫が応えた瞬間。
「はあ〜い」
幼児、というより、もう少しだけ大人びた少女の声が、ほわっと、部屋の空間に響きました。素直で、優しげな音でした。
「今、したね」
「うん、聞こえた、女の子だね」

たまの温泉旅行だし、親たちも、ほれビールださて日本酒だモードと化し、子供たちだって、好きなことを好きなように、としていたのですが、それ以来、宿の部屋では、長男は、例えば「大人の科学」シリーズの、楽しい動きのある工作物を組み立てを仕上げ、操り、二男はプチバルーンを膨らませて飛ばし、私は絵本を読む、という本来のカタチに、戻ったのでありました。

そして、そういった、爆音や、破壊音、阿鼻叫喚と無縁の遊びや楽しみに興じている時に、写真を撮ると、白くて模様のある玉ちゃんずが、いっぱい映り、こちらも、わけもなく、幸せで弾んだ気持ちになっていくのでした。
by chaiyachaiya | 2013-02-18 19:54 | 座敷童子さん
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