そう、そのふたつの黒い瞳に気がついた瞬間、多分、僕のこころは、半分まだ継母の呪いのなかにあったらしい。
瞳の持ち主を、同じ人間として捉えられなかった。野生の生きものの仲間のような気がした。僕とおんなじ、翼を持った、でも、僕より少し濃い色の肌の、混じり気のない命が、其処にいるようだと思った。
『おまえは、何処から降ってきた?』
並んだふたつの黒曜石の瞳が、尋いてきた。そこには、僕が昼も夜も人間だった最後の日の、夕刻のひと時に見た、名残りの赤紫の光りが映っていた。
『おまえは、敵か? 此処を、滅すために、遣わされた者か?』
既に、その少女は、手近な樹の枝を折り、僕が起きあがれないよう、肩先に突きつけている。
僕も、彼女に習い、瞳で、伝えた。
『違う。此処は僕の知らない土地。ある者の呪詛と、自らの無知により、奇妙な旅を強いられてる。僕はただ、自分の在るべき場所に戻り、物語をただしたいだけなんだ』
よけいに、枝の先が、肩に押しつけられた。
『調べる』
少女の真っ直ぐな髪が揺れ、僕の鼻先を掠めた。森の葉と、樹に咲く白い花のにおいがした後、僕は気を失った。
夢のなかで、僕と少女は、もっと緑の濃い、鬱蒼とした生きものの世界で、小さな蟻となっていた。
そして、とっても、お互いを、大事に思っていたんだ。