へータレさんは、この頃、近年にない酷い落ち込み症状を呈し、しくしくすももさん(へのへのもへじ、の要領で描けば、打ちひしがれた泣き顔が現れるらしいのですが、上手く出来ない私にとっては、地方?都市伝説みたいな感じです)として、生きていました。
猫らへの、MAX猫撫で声による語りかけも、減っていたのでしょう。
へータレ・コイジア、或いは、しくしくすももさんの眼から零れる塩水のにおいも、好奇心に満ちているけれど、昨日と違う今日が苦手な猫らに、かなりの不安を与えたのかもしれません。
救いのソファー島は、猫らの爪研ぎアタックにより、ぼろぼろで、海原にさまよい出たとたん、浸水して、沈んでゆきそうです。
外に出てひとと接する時は、「おだいじに」と言われぬ程度のテンションを保っていますので、お家に帰って、玄関ドアを閉じたとたん、安心して、ぐったりしたり、眼から塩水の流れるに任せて、時々は、ひくひく肩など震わせちゃいまして、心おきなく、我が身を憐れんでいたのでした。
最初に、それに気づいたのは、二週間ほど前だったように思います。
チンチラペルシャは、お顔の毛なみもほわっとしているため、角度によっては、まったく、それを認識出来ませんでした。
けれど、ジュヒーの右横に視座をずらした時、彼女の大きな瞳のすぐ下の頬が、ぬめぬめと血の赤で濡れ、毛が無くなっているのがわかりました。左の頬は、かろうじてぬめっていない様子ですが、薄ピンク色の頬の皮膚が、疎らになった毛なみの奥に、透けて見えています。
知人に、頬の毛なみと皮膚を損傷したジュヒーの画像を見せたところ、
「両方の頬なのね。これとまったく同じ症状になったうちのダックスくん、動物病院で診てもらったら、虫歯に歯周病のせいで、頬の皮膚までやられて、この写真のネコちゃんと同んなじ。全身麻酔で、左右の奥歯、二本づつ抜きました」
へータレさんは、しくしくすももしている間もなく、ジュヒーをキャリーに詰めて、いざ、かかりつけの動物病院へ、車を走らせました。全身麻酔で抜歯された後、お口や体調がおもわしくなくなった、可哀想なジュヒーを想い、それから、手術前後や費用のことなど、現実的な事柄が、じわりと輪郭を露わにしてくるのも感じました。
すぐに患部の皮膚細胞の検査がおこなわれたのですが、出た結果は、私の思い込みの外にありました。
「虫歯もないですし、黴も、ウイルス、菌の類も出ていません。何らかのストレスによる、免疫力の低下によるものでしょう」
そう言えば、私が、気の悪い、マイナスな文言を口にする度、ジュヒーは、ビクッと身を固めたり、時には部屋を出ていっていました。
夜になってもソファー島から出られずに、漂流している時、彼女は、ソファーの背もたれの上、香箱座りの体勢で、私と一緒に朝を迎えてくれていたのです。アビもルーも、暖かい寝室のベッドへは向わず、私の傍で、夜を明かしています。
ふと見遣ると、アビの左目の上には、赤いドットが出来ていました。
ああ。
私が、へータレさんを返上しない限り、猫一匹、守れないのだな。
あれよあれよという間に、猫らの心身が、健やかでなくなってしまうんだな。
難しいけれど、やってみる。
猫らのため。