ユーリズミックス全盛期の頃、アニー レノックスの声は、熱く硬質で、上等な肉質の金属みたいだと思った。(もの凄く褒めているつもりです)
マニッシュなコスチュームに、発光オレンジ色のクルーカットの頭部、瞳は、照明によって時にはブルートバーズ、そして、大きなお口は、ごく早い時代では、全開でシャウトすると、奥に銀歯すらのぞいていた。チャートレースを制して後は、きっとセラミックの良い奥歯を被せたことだろう。
あ、アニー レノックスの奥歯の話しではないのだった。
ロンドンオリンピックの閉会式での、鬼籍からのフレディ マーキュリーの出現とともに、アニー レノックスの、帆船を舞台にした、ソロアルバムからのパフォーマンスには、きゃ~きゃ~言ってしまった。
多分あまり手の混んだアンチエイジングは施していないであろう、アニー レノックスの勇姿、衰えていない歌声。歌の最後のポーズは、帆船カテイーサークの先の魔女風、だったのかな。
NHKのアナウンサーさんの絶え間のない語りが、これはブリティッシュポップコンサートではなく、あくまでもオリンピック閉会式なのだという自覚を、促させてくださった。
あ、NHKの粋な計らいに、異議を申し立てる段ではなかった。
「I am not kinky person」
以前、英国版のユーリズミックスムック本みたいなもののあるページに、アニー レノックスのこんな言葉をみつけた。
「我は奇矯な人物にあらず」
なぜだろう。私のなかで、疑いもなく、こんな文語体な日本語として、おさめられた。
石造りの歴史ある修道院で、僧衣を身に纏っているアニー レノックスが、下界の俗人らを一瞥するイメージ。きりり。
その後、テレビで「Kinky Boots」という映画を見ても、ピンと来なかった私。
英会話教室で「初めてまして」の後、英語圏出身の先生方に対し、もれなく、
「I am kinky person」(私は ちょい 変なトコある人ですが、よろしく)
と、笑顔で自己紹介していたのだった。
或る米国人のチェンバレン(仮称)先生が、
「お家に帰ってからでいいよ、kinky という言葉について、調べるんだよ」
と、笑顔を返してくれた。
言いつけ通り、私はお家に帰ってから、電子辞書を開いた。
おお。
「私は性的倒錯者です」
初対面の英語圏の人々に、私は、微笑みながら、カミングアウトしていたことになる。
おおお。