働き蟻の命の時間の間じゅう、既に何度も、何度も、死んだり、生まれたり、を繰り返している気がしていた。
来る日も来る日も、抑揚のない完璧な呪文のように、あなたと私は、働き蟻の時間を永遠に、生き続けているような。
この選択肢のない生き残りゲーム。ご褒美は、稀に口にする、雨に混じった、植物の蜜。それにしろ、ふと気を弛めたとたん、樹木達から虹色に滴る蜜の内部にとりこまれ、溺れて息が出来なくなる。
気をつけなくちゃ。今日死んで、明日生まれる、小さな単位の命だとしても、生きなくては。懸命に、生きなくては。
その日の朝、ジャングルの、ごく小さな黒い粒の私は、夜明けとともに、いつになく、手脚の関節のすみずみにまで、森の気が行き渡り、からだが軽く思え、踊り出したいくらいだった。
暗い巣穴から、地上へ、隊列を組んで、私達は先ず、一列に繰り出すのだが、私達の触角伝達は、きっとコンピューターより早い速度で、世界の片隅の暑い熱い地下王国を支えているのだ、という自負が、私のフットワークをより軽いものにしていく。
私は、いよいよ、踊り出しそうになった。
触角を振り振り、密林の黒い粒ダンスを、私の前を行くあなたをけしかけて、一緒に踊りたいと思った。