骨というのは、私にとって、時間そのものだ。
・・・生きていれば、絶えず損なわれてゆくもの。
とりわけ早い時期から骨が溶けだし始めた私にとって、或る意味で、骨は、命の証しそのもの。
堅牢な骨が、欲しい。
この眠気に屈せずに、運動をし、筋肉を適度に破壊したところに、低カロリーをうたったプロテインを摂取し、筋肉の再生をはかり、刺激とし、なんとか、この、雪の女王が引っ越していって、輝きを失った古い城のような、すかすかの骨の城に、命の息吹を取り戻さなくては。
寝ている場合じゃないだろう。
ふいに、フランソワーズ・サガンのことを、思い出した。サガンは、その晩年、骨粗相症による痛み(彼女の場合、若い頃の大事故の後遺症による痛みが、ベースにあったのかもしれないけれど)から、杖なしでは外出がままならなかったそうだ。
フランソワーズ・サガン女史もすなる骨粗相症状態かあ・・・。
かあ・・・
居間の真ん中のソファー島に、私という骨組みがカサカサの難破船がうちあげられた。
あれ、あなた、一昨日の夢のおしまいに出て来た、灰色の猫くんじゃないの。薄墨桜色の肉球で、ひたひたと、夜の路地を歩いてた。
それは、私の声に反応するように、こちらに向かって、月明かりの下に歩み出てきた。
あれ?
「ぶっひっひっひー」
四つ足動物に間違いはないが、シルエットもカラーリングも違う。猫じゃないな、きみ。
「ぶっひっひっひー」
そやつは、偶数の蹄の偶蹄目、豚のようだった。豚なのだけれど、ニワトリの「こけこっこー」をまねた発声をしては、時々少し誇らしげに、夜の始まりの空を見あげながら、私のほうへ近づいてきた。