一年に一度、背が高く美しい骸骨の紳士と、私は夢のなかで、空を飛ぶ。
レム睡眠のなかで、ふうっと、骨でできた彼の気配を隣に感じると、懐かしさと愛おしい気持ちに満たされる。
織姫と彦星ならぬ、おばさんと骸骨の逢瀬の舞台は、星空ではなく、黄ばんだ雲に覆われた街の上と、いつもだいたい決まっている。雲間からのぞく青空も、やや黄身を帯びて見える。
西洋の油彩画のニスが、やや経年変化した色ぐあいに似ている。
彼の肉体は、アイスダイヤモンドのように白濁し、微かに光りを放っているようなのだが。
この街のひとびとは、あの骸骨の骨のどこにも、光りなど存在しないという。あるのは、禍々しい白い闇だけだという。
肉を持たない肉体なんて、と、厳しく唾棄される。
あたりまえのことを言われた私は、つめたい石畳の路地にへたり込みそうになる。
彼のことを、髑髏、と表されるのも、好きじゃない。どくろ、と読んでも、しゃれこうべという響きも嫌。
頭部だけみたいだし、余計な、安っぽい物語性がくっついてくる感じがする。
彼の装束は、細部まできっちりと作りこまれている。ちょっと古風ではあるが、彼にふさわしい。
重い緋色のマントを翻し、重力の掟や、生命の定め、あらゆる決まりごとのくびきを、一瞬で解かして、私の骸骨の紳士は、空を飛ぶのだ。
温かくも冷たくもない、彼の骨の掌に、私のまだ肉のある手のひらを重ねると、次の瞬間にはもう、街を見降ろしている。
手と手を重ねる前の、彼が私の方を向く一瞬は、いつ思い返しても、切なくなるばかりだ。
これは、私に与えられた特権なのか、なにかの罰なのか、未だよくわからない。
けれど、彼と私の年に一度の逢瀬は、十年、続いている。